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「おは……何でいんの?」
「抜けて来ちゃった」
ソファに腰掛け、ははっと乾いた笑いを零した白髪の青年は、紅葉にとって切っても切れない人物である。
彼は、俗に言う神というものだった。
「……神さまが仕事抜けてきていいのかよ」
用意されていた茶を一口啜って紅葉は問う。
「また怒られてもしんねぇぞ、白斗。」
青年――壊下白斗(かいかしろと)は困ったように笑った。
「わかってるけど……大変なんだよね」
苦笑しながらもゆっくりとソファから立ち上がり、白斗は玄関へと向かった。
「……紅葉。
何か……変わったことはない?」
ドアノブに手をかけたまま、彼は紅葉に問いかけた。
紅葉は夢のことを思い出したが、別にと普段通りの答えを返す。
「そっか、じゃあ何かあったらすぐ言ってね?」
「はいはい……」
行ってきますと家を出た白斗の背に手を振り、紅葉はソファに腰を下ろした。
紅葉は近くの高校に通っているが、今学校は長期の休み。する事もないので朝みた夢を思い出していた。
(俺が死ぬ夢……いや、死んだ時の夢、か)
きっと白斗が言っていた『変わったこと』とはこのことなのだろうと彼は思った。
しかし、このことはどうしても白斗には言えなかった。
それはこの過去に白斗が大きく関わっているからで、話すと両者共に複雑な気持ちになってしまうからである。
(あいつは、どう思ってんだろ)
ソファに横になると次第に瞼が重くなるのを感じた。
最初は起きようと考えていた紅葉だったが、途中で諦めたのかゆっくりと目を閉じた。
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