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屋敷に戻った二人はそのことを母たちに話した。
もともと許嫁と決めていたが本人たちが互いに好きであることを知ったことに紅葉の母はとても喜んだ。
一方白斗の母は何か分からない感情で満たされていた。
が、嬉しそうな白斗を見ると自然と微笑みを浮かべていた。
当時の結婚は通い婚、3日女の部屋へ男が通う。
これは決まりであるため白斗は実行したが、2人は何もしなかった。
ただ会いに行くだけであった。
そして三日目の事、式に使う花を摘みに行った白斗と紅葉はそこで燃え盛る屋敷を目にした。
もうどうしても取り返しのつかないところまで火は回り、紅葉は堅く目を閉じて泣いた。
目を開ければ真っ赤に燃える家が、息を吸えば焼けた木の臭いが、耳を澄ませば崩れゆく屋敷の音だけが鼓膜を揺する。
慰めを欲して紅葉が後ろを振り向くと、そこに白斗の姿はなかった。
暫くして、紅葉はふらりと立ち上がるとゆっくり歩き始めた。
その先には数多の思い出が詰まった丘があり、丘の頂上――崖の前までやってきた。
夕日で真っ赤に染まる海は、まさにさっきの光景である。
紅葉はその燃え盛る炎を思い出しながら、ゆっくり目を閉じて――――落ちた。
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