第1章

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「 あった。 ……やっぱりこれ入れると鞄重っ」 頭から胸までの外国人の石膏像が何体も並ぶ棚の前には、イーゼルと私達美術部員の書きかけのキャンバスが立て掛けてあって 滑り止め用の枠が付いた手前より奥が少し高くなった木製の机と椅子が並ぶ高校の美術室の教壇と黒板の脇には、ひとつ扉がある その扉の向こう 準備室と呼ばれるこの油絵の具と埃の匂いが漂う空間に 私、三鷹早希はいる 「 あった?」 私の声に反応して、美術室の方から彼氏の早瀬君が顔を出す 「 ん。一気に重くなった。」 そう言って少し鞄を持ち上げてみる 中には、重いので普段ここに置きっぱなしにし、試験前にだけ持ち帰る世界史の資料集が今加えられた 「 大丈夫かよ。」 早瀬君もこの部屋に入ってきて、鞄を持ってくれる 「 ありがと 」 私の感謝の言葉を眼を見て聞いてくれると、今度は好奇心一杯の表情で部屋を見回す 「 こんな風になってんだな……。」 ほぼ正方形の部屋に、出入り口は美術室との扉だけ 壁ひとつ分を覆う棚の中には、色んな画家の画集が薄く埃を被っている 「 部員以外入れないもんね。」 「 あぁ。ピカソやゴッホは知ってるけど、マネにモネって紛らわしいな。 あ、このルノワールってのも聞いた事あるな。」 棚に並ぶ画集の名前を見ながら彼が呟く 「 ルノワールは多分見た事あるんじゃない?」 「 そっかな?」 「 ん。そうだ、見てみる?」 「 え? いいの?」 「 ん。」 鞄を置いてもらって、棚から取り出した画集を半分づつ持ち、頭を寄せてページを捲る 同じクラスで、美術室の窓のすぐ隣にある中庭でブラスバンド部の練習をする姿をよく観てた彼から告白され こんな風になれるなんて思わなかった
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