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「 ほら、こういうのとか見た事無い?」
パリのカフェでの場面を描いた絵のページで声を掛ける
「 んー。あるような無いような… 」
「 えー?結構有名だけどな… 」
「 んー、ゴメン。でもめっちゃ細かいよな。この髪の毛とかスゲー。」
「 ルノワールは私も好き。例えば…… 」
画集のページを進め、ある所で止めた
紅い帽子を被り、白地に細かい花柄が散りばめられたドレスを着た女性が男性と踊りながらコチラに笑い掛ける絵だ
「 これ?」
彼が聞いてくる
「 これね、奥さんがモデルなんだよ。この絵の他にも奥さんをモデルにしてるのがあるんだけど…すぐに判るの。」
「 へぇ。」
「 表情がね…他の作品より強いから。好きな人の前でこんな顔出来たり、その顔を覚えてて描いてくれるのって良いなって… 」
「 んー 」
「 えー、思わない?」
「 え? つまり自然体で居られる関係って事?」
「 中味を観てくれてるって事。そういうのが良いなって」
「 …じゃあ、もう少しかな? 三鷹、俺の前ではまだ構えてるだろ? 付き合って1ヶ月しか経ってないから無理ないか… 」
「 ん。」
「 これからな。」
「 そうだね。」
画集を閉じて元の所に戻すと、また私の鞄を持ってくれた背中を眺める
ねぇ、早瀬君……
ルノワールって、何人の女の人をモデルと称して見詰めてきたのかな?
その人と過ごす長い時間をどうやって奥さんとなったアリーヌは飲み込んできたと思う?
泣き叫びたくならなかったのかな?
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