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……ヤバイ。
これは本当にまずい、手が出そうだ。
テーブルから滴り落ちるオレンジジュースに、ぐっと拳を握りしめた。
無言で立ち上がってタオルを鷲掴みにして、オレンジ色の水溜まりに押さえつけた。
もう一枚のタオルを水で濡らして固く搾り、絨毯のシミを叩く。
「ままぁ」
まずいことをしたと解ってはいるのだろう、私の機嫌を窺うような声が頭上に降ってくる。
子供用椅子に座る彼女は足の先からポトリと一粒の滴を落とし、絨毯に新たにシミを作った。
「もうっ!!!」
大きな声が出た。
生まれて三年しかたってない子供に、「気を付けろ」だの「何回言ったら解るの」だの押し付けたところで、注意力が即座に培われる訳じゃない。
それでも、毎日毎日「人」とはまだ言い切れない未熟な子供を相手に悪戦苦闘の日々を送っていることに、ものすごいストレスを感じていた。
声に驚いて、わぁわぁ泣き始めた声が耳につく。
泣きたいのはこっちだ!!
彼女がひっくり返したオレンジジュースはもれなく彼女をも水浸しにしていて、さっき着替えさせたばかりなのにまたかよ、と吐き出しそうになる言葉をぐっと飲み込んだ。
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