深碧の瞳

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悪夢だ…。 そう思った。 けれどあの男は私に 全く視線も向ける気配もない。 まるで気づいていないのか それとも無視しているのか…。 「はい、じゃあみんな 仕事に戻って下さい」 係長の言葉に一礼して それぞれの席に座って また仕事を再開させる。 佐藤係長に案内されながら デザイナーそれぞれの パソコン画面を順番に 覗き込んで歩くあの男の足音が だんだんと私に近づいて来る。 こわばって行く、身体。 何でだろう…? 何故か解らないけれど 無性に恐怖心を感じて 思わずゴクリと唾を飲んだ私を 隣で桐生が不思議そうに 見つめている。 「葵さん?どうかしました?」 「ううん、何でもない…」 「具合悪いなら 無理しない方がいいですよ」 「うん、大丈夫」 そんなやり取りをしていた 私と桐生の背後でその足音が ピタリと止まる。
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