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後ろからひかるがこっそり私に囁く。
昨日ひかるが話していた、バスケの上手い男の子。それは目の前にいるこの彼のことだったのか。なるほど、これだけのイケメンなら、すぐに噂が広まったのも頷ける。
感心してまじまじと男の子を見つめていると、その目が不意にこちらを見た。けれど、視線はすぐに私の後ろへと向けられる。
「あれ、紺野さん。おはよう」
「内海くん、おはよう」
綺麗な笑顔を見せて言った男の子に、ひかるもお手本のような笑みを返す。
「昨日は本当に凄かったね。スリーポイント、全然外さないし」
「それを言ったら内海くんの方が凄かったよ。大きな大会出たことないなんて信じられない」
「そうそう、お前一体どこの中学出身なんだよ」
三人は和やかなムードで言葉を交わしている。その様子を私は、一歩離れた場所で感心しながら見つめていた。
背が高く顔立ちの整った三人は、ひかると春兄に対する身内の贔屓目を除いたとしても、気後れするくらい輝いて見えた。
「……春兄、私先に行ってるね」
話が盛り上がっているのを邪魔しないよう小声で言って、紙袋を持った春兄の手をつつく。
「あ、ごめん。つい盛り上がって……」
「ううん、気にしないで」
むしろ話を中断させてしまった私の方が申し訳ない。
差し出された紙袋を受け取って、その場を後にしようとする。
けれど、ふと何やら熱い視線を感じて、私は顔を上げた。
「…………」
視線の主は美少年、内海悠くんだった。彼は食い入るように私の持つ紙袋を見つめている。
「一条金色卵……」
「え?」
ぽつりと呟かれた言葉に目を瞬くと、彼は素早く口を手で押さえた。そして一瞬目を泳がせた後、誤魔化すように口を開く。
「あー、えっと……三井先輩の彼女さんですか?」
「へっ?」
何気無く問われた言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「まっ、まさか! 違います、ただの幼馴染です」
荷物を持ってもらっていたから、勘違いしたのだろうか。春兄は親切心で持ってくれていただけなのに、そんな誤解をされては春兄に申し訳なさすぎる。
「へー」
必死になって否定する私に対し、尋ねた方の内海くんはさして興味がなさそうに相槌を打つ。
「……こいつは紺野さやか。ひかるの一つ歳上の姉だよ」
「え、姉妹なんですか」
春兄の言葉に、内海くんは少し驚いたように目を丸くした。
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