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その後に続く言葉はなかったけれど、私には彼の言いたいことが手に取るように分かった。
『姉妹なのに全然似てない』
『妹は可愛いのに』
これまで生きてきて、何度となく言われてきた言葉だ。今更、傷付くようなこともないけれど。
「うん。よかったら、妹と仲良くしてやってね。それじゃあ、また」
「ああ、クッキー楽しみにしてるな」
笑顔で手を振る春兄とひかるに手を振り返すと、私は三人に背を向けて下駄箱へと歩いていった。
クッキーを作る材料の中には、卵やバターなど冷蔵庫に入れておかなければならない材料がある。
教室へ行く前に、家庭科室へ食材を置きにいこう。
考えながら壁に掛けられた時計を見ると、予鈴が鳴るまであと五分ほどしかなかった。私は靴を履きかえると、急いで家庭科室へと向かった。
「やっ、やった……!」
放課後、恐る恐るオーブンから取り出したクッキーを目にして、思わず声に出して言った。
失敗を重ねること十数回。大量の材料たちを無駄にしてしまったけれど、なんとかクッキーと呼べそうなものが出来上がった。
春兄、喜んでくれるかな。余熱を冷ましている間も、嬉しくて椅子に座ったままじっとクッキーを見つめてしまう。
早く渡したいけれど、春兄はまだ部活中だろう。
私たちの通う明林高校のバスケ部は、この辺りでは有名な強豪だ。したがって、その練習は他の部活とは比にならないほど厳しい。今日、朝練がなかったことを考えると、練習が終わるのはかなり遅くなってからかもしれない。
クッキーは、また明日渡そうかな。練習後にクッキーというのも口が乾きそうだし、きっとその方がいい。
私は出来上がったクッキーを袋に入れると、帰り支度を始めた。部活に出ていたのは私だけだったので、帰るタイミングは自由なのだ。
先輩たちがいた頃は、楽しかったな……。仕方がないと分かってはいるのだけれど、ついそう思ってしまう。
家庭科部には先輩が三人と、私の他に同級生の部員が三人いた。けれど、先輩たちは今年大学受験があるからと、運動部の人たちより一足早く、去年の三月に部を引退してしまった。その頃から、同級生の部員たちも家の用事などが忙しくなってきて部を休むようになり、私はこうして一人で部活動をするようになってしまったのだ。
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