587人が本棚に入れています
本棚に追加
去年までは、部にも活気があって楽しくて。それを思うと、つい寂しくなってしまう。一年生が誰か入ってきてくれればいいのだけれど、他の部活に比べると家庭科部は華やかさが足りないせいか、まだ見学に来てくれた子も一人もいない。
施錠を終えて校舎を出ると、もう日が傾きかけていた。春になり、暖かくなってきたと思っていたけれど、このくらいの時間帯はまだ少し肌寒い。家に向かう足取りは、自然と速くなった。
明林高校から私の家までは、徒歩で三十分ほどかかる。明林高校はこの辺りでは一番偏差値の高い高校だったため、私の通っていた中学ではここを第一志望にする同級生が多かった。
私は特別頭が良い方ではなかったため、この高校には受かるかどうかは微妙なところだったのだけれど、春兄と同じ高校に通いたくて必死で勉強して、なんとか合格することができたのだ。
茜色が町をすっかり染め上げた頃、閑静な住宅地にある一軒家に着いた。
広い庭付きの大きなレンガ造りの家。これが私の家だ。ヨーロッパの町にあっても溶け込みそうな、このお洒落な家は、建築家の両親がこだわって自分たちで設計して建てた家なのだそうだ。
「ただいま……」
ドアを開けて家に入ると、誰も居ないリビングに向かって呟く。ひかるはまだ帰ってきていないようで、窓から僅かに夕日が差すだけのリビングは、既に薄暗い。
電気を付けてカーテンを引き、何気なくキッチンに目を遣る。
「あれ……?」
キッチンは、昨晩散らかしてひかるが軽く片付けたままになっていた。
家事代行の杉谷さん、まだなのかな……?
うちの家では、週にニ回家事代行サービスに来てもらい、掃除や料理、洗濯などをしてもらっている。
鍵は預けてあるため、いつもは私が家に帰る頃には全て終えて帰っているのだけれど、どうした訳か今日はまだ家に来た様子がなかった。
何かあったのだろうか。事故になど遭っていなければいいのだけれど……。
そう考えていると、呼び鈴の軽快な音がリビングに響き、ほっと息を吐いた。きっと杉谷さんだ。
「はーい」
返事をしながら長い廊下を走り、ドアを開けて玄関を出た。
すると、見慣れた赤いギンガムチェックの三角巾が目に飛び込む。腰を曲げ、掃除道具の入ったバケツを持ち上げようとしていたその頭が、ゆっくりと上げられた。
「遅くなって申し訳ありません。家事代行サービス、ラビットの内海で――」
「え……内海くん?」
「は……?」
最初のコメントを投稿しよう!