噂のあいつは新入生!

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思わず声を漏らした私に、目の前の人物は眉を寄せて軽く伏せていた顔を上げる。 私と目が合うと、その目はゆっくりと見開かれ、次の瞬間さっと顔を青ざめさせた。 「……内海? 誰のことですか? すみません、ちょっと俺、家を間違えたみたいです。では」 「ち、ちょっと待って、内海くん!」 内海くんはバケツを持ったまま踵を返そうとし、私はその腕を取って慌てて引き止めた。 観念したように内海くんが振り返ると、赤いエプロンの真ん中に描かれた家事代行サービス『ラビット』のイメージキャラクターであるラビットくんのあまり可愛くない笑顔がこちらを向いた。 似合わない……。思わず見惚れるほど端正な顔立ちに、大きなウサギの顔が描かれた赤いエプロン、三角巾という出で立ちは、まるで違和感を絵に描いたかのようだった。 「……紺野さんのお姉さん。えーっと、名前は……」 「さやかです」 名前を覚えていなかったのか、考えるように言いよどんだ彼に軽くお辞儀をして言う。すると内海くんは、素早く両手を伸ばして私の手を取った。 「さやか先輩、お願いします。俺がこのバイトしてるの、誰にも言わないでいてくれませんか?」 「え……?」 突然間近に迫った綺麗な顔とその言葉に戸惑い、思わず目を瞬く。 「うちの高校、バイト禁止じゃないですか」 「あ、そっか」 「お願いします! 俺、このバイトを辞めるわけにはいかないんです……!」 「内海くん……」 真剣な眼差しで私を見つめる内海くんを、困惑しつつ見返す。 よく分からないけれど、何か事情がありそうな様子だ。 「分かった。誰にも言わないよ」 「ありがとうございます」 安心させるように微笑んでみせると、内海くんはほっとしたように笑みを広げた。 「それじゃあ、早速ですけど仕事に取り掛からせてもらいます」 「うん、よろしくお願いします」 バケツを持った内海くんを家の中へと迎え入れ、そのままリビングへと案内する。 「でも、どうして今日の担当は内海くんだったの? いつもは杉谷さんが来てくれるんだけど……」 「ああ、それは杉谷さんの息子が急に風邪ひいたとかで…………」 リビングに入った内海くんが、突然言葉を途切らせた。 「……内海くん?」 「な、なんやこれは……」 内海くんは手に持っていたバケツを落とし、わなわなと震えながら呟いた。念のため周りを見渡してみるけれど、もちろん他に人の姿はない。
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