噂のあいつは新入生!

15/24
前へ
/38ページ
次へ
キッチンの片付けを始めてから二十分ほど経った頃、満足そうな笑みを浮かべて内海くんがこちらを振り返った。 「お疲れ様! すごいね、換気扇までピカピカだ!」 「べ、別に、そんな褒めるほどのものでもないですけど……」 内海くんはそっぽを向いて、少し照れくさそうに首に手を当てる。 キッチンはまるで大掃除をした後のように、どこもかしこも綺麗になっていた。これは家事代行サービスでやってもらえる掃除の域を軽く超えていると思う。 こんなに綺麗にしてもらったのだし、何かお礼がしたいな……。 「そうだ、内海くん。お礼にクッキーでも食べない?」 「クッキー?」 「うん。人にあげるから、味見してほしいっていうのもあるんだけど……」 きょとんとした顔で振り向かれ、少し頬を熱くして笑った。内海くんはそんな私を見て、一瞬考えるように視線を彷徨わせたが、すぐに小さく頷いてみせた。 「……いいですよ」 「本当に!? これなんだけど……」 いそいそと鞄の中からクッキーの入った紙袋を取り出す。そして棚からお皿を一枚取ると、袋を傾けて中身を出した。クッキーがお皿にぶつかる硬い音がキッチンに響く。 「どうぞ」 「……これは、何ですか?」 皿に載った不恰好な茶色い塊を指さして内海くんが聞く。 「クッキーだけど……?」 「ありえへん……料理の神への冒涜や……」 内海くんは僅かにたじろぐと、震える声で呟いた。 「あ、あの、内海くん……?」 「一条金色卵」 「え?」 「使うてたやろ!? 一条金色卵!」 きっと目を吊り上げてこちらを見た内海くんに、私は思わず後退った。 そう言えば、内海くんと今朝初めて会ったとき、そんなことを言っていたような。ぼんやりと覚えている記憶をたどっていると、内海くんはくっと悔しそうな声を上げてシンクに両手をついた。 「あの高級卵をこんな姿に変えてしまうやなんて……むごい……むごすぎる……」 「えーっと、内海くん……?」 すっかり萎んでしまったその背中に、恐る恐る声をかける。 内海くんはこちらを振り返るや否や、クッキーを手にこちらに詰め寄ってきた。背の高い彼に真上から見下ろされると、威圧感から無意識に首が竦んだ。 「クッキー言うたら、普通サクサクした食感がうりやろ?」 「へ……う、うん?」 「それが、何ですかこれは。石か? こんなん食うたら、歯ぁかち割れますよ」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

587人が本棚に入れています
本棚に追加