噂のあいつは新入生!

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「なんやねん、これは!? 全っ然あかんわ、もっかいやり直せ!」  多くの生徒たちがクラブ活動にいそしむ放課後、そんな怒声が響いたのは、体育館でも運動場でもなく、暖かな日差しの降り注ぐ家庭科室だった。  怒声の主は二週間前に家庭科部に入ったばかりの一年生、内海悠。  私は自分より頭一つ分背の高い、後輩である彼の顔を見上げると、一瞬固まっていた表情を崩して笑みを浮かべた。 「えっと、内海くん。確かに見た目は悪いけど、食べてみたら意外と美味しいかもだよ?」  そう、今度は今までのものとは違うのだ。今この手に乗せられているお皿の上には、所々焦げてはいるものの、なんとか長方形の形を成した黄色の塊、卵焼きがあった。これは、幾度となく失敗を重ねてようやく完成した、私にとって奇跡の一品だ。  しかし、その一品に再び目を遣った彼は、ぴくりと頬を引きつらせた。 「それのどこが卵焼きなんですか! 貸してください」  言うなり内海くんは、私の背後にあったフライパンを奪い取り、足早に流し台へと向かった。手早くフライパンを洗うと、流れるような手つきで油をひき、卵を解いて味付けをしたそれを流し入れる。  そして数分後。 「すっ、すごい! きれい!」  出来上がった卵焼きに、私は目を輝かせた。  型に入れて焼いたのかと思うほど整った形に、綺麗な黄金色。自分の作ったものと並べると、同じ料理とは思えないほどだった。  一口食べてみると、口の中でほどよい甘さがじわりと広がる。 「うわあ、ふわふわ……おいしい」 「いいですか、卵焼き言うたら最低限こんくらいのもん作ってから言うてください」 腕を組み、こちらを見下ろしながら内海くんが言う。 「内海くんは本当にすごいね! 天才だよ!」 「……別に、こんくらい普通ですよ」  素っ気なく返すが、そっぽを向いた内海くんの顔はまんざらでもなさそうだ。ふとその目が私の作った卵焼きに留まる。 「しゃーない、味見くらいしたりますか……」  呟くように言うと、内海くんは添えてあった箸を手に取り、私の作った卵焼きを一切れ口に含んだ。同時に、内海くんの動きが止まる。 「ど、どうかな? 美味しい?」  固まったまま動かない内海くんを、期待を込めた目で見つめる。  しかし、内海くんは物凄い勢いで私に背を向けると、置いてあったキッチンペーパーを手にごみ箱へと走った。 「うっ……おえっ……」
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