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「バスケ部の見学行ったけど、春兄、女子にすごい人気だったよ」
「そ、そんなことより、部活自体はどうなの? 上手い子いた?」
追い討ちをかけるように言われ、居たたまれなくなった私は矢継ぎ早に尋ねた。すると、ひかるは少し頭を捻った後、何かを思い出したように、あ、と声を漏らした。
「一人、一年生の男の子で上手い子がいたよ」
「へぇ……ひかるがそう言うってことは本当に凄いんだね、その子」
ひかるは中学の頃からバスケをやっていて、雑誌で取り上げられたことがあるくらい上手だ。加えて、ひかるは他人にも自分にも厳しく、決してお世辞は言わない。そんなひかるがこんな風に手放しで人を褒めるのは、とても珍しいことだった。
「うん。しかも凄いイケメン。女の子みたいに綺麗な顔でさ、なんか一年の間でも噂になってた」
「へえー」
「ま、私はもっとがっしりしてて、マッチョな男らしい人がタイプだから、興味ないけどね」
ひかるがそう言い終わると同時に、電気ケトルが鳴ってお湯が出来たことを知らせてくれる。
入学して一週間で噂になるなんて、一体どれほどのイケメンなのだろう。少し興味を掻き立てられ、ぼんやりと想像しながら腰を上げてお椀を手にケトルへと向かった。
「ありがと」
テーブルに戻り、手を伸ばしてきたひかるにお椀を渡すとそのまま席に着く。
しかし、お椀に口を付けたひかるは、突然背中を丸めて咳き込み始めた。
「大丈夫?」
慌てて近くにあったティッシュを数枚取って手渡す。
「お姉ちゃん、これただのお湯じゃん!」
「えっ? あっ!」
手元を見ると、お寿司に付いていたお吸い物の素が置きっ放しにしてあった。
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