587人が本棚に入れています
本棚に追加
「おっ、意外と重いな……」
「いいよ、春兄。春兄だって部活の荷物とか、重いでしょ?」
慌てて両手を差し出すが、春兄は紙袋を後ろ手に回して隠してしまう。
「嘘、嘘。これくらい持てなきゃ、きつい練習耐えらんないよ」
「でも……」
「んー……あ、じゃあさ、今日クッキー作ったら、それ俺にも分けてよ」
「え……」
思いがけない言葉に思わず目を瞬く。春兄は少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「俺、甘いもの結構好きなんだよね。……だめ?」
「う、ううん! 全然!」
「やった。約束な」
全力で首を横に振ると、春兄はくしゃりと私の髪を撫ぜた。その仕草にどきりと胸が高鳴る。
少し癖のあるミディアムヘアーは実はコンプレックスの一つだったりする。妹のひかるはさらさらストレートのショートボブで、昔はその髪が風に揺れる度に羨ましい気持ちで眺めていた。
春兄の一歩後ろを歩きながら、そっと頭に手を遣る。心臓はまだどきどきと音を立てていて、私は熱くなった頬を隠すように俯いた。
今だけは、この髪のことも好きになれそうな気がした。
「じゃ、俺はこっちだから」
春兄は生徒たちでひしめく校舎の入り口で立ち止まり、私に紙袋を差し出した。
けれど私がそれを受け取る前に、何かを見つけた様子で正門の方へ手を上げる。
「内海!」
「……あ、三井先輩。おはようございます」
眠そうに目を擦りながら、一人の男の子が軽く頭を下げて近付いてきた。
すらりと高い背に、少し色素の薄い瞳、人形のように整った目鼻立ち……思わず見張るような美少年だ。
「お姉ちゃん、こいつだよ。私が昨日言ってた男の子」
最初のコメントを投稿しよう!