30人が本棚に入れています
本棚に追加
そこまで自信満々に言われたら、試してみるしかない。
「じゃあ、やってみます…」
ええと、対称刃から放たれるパワーを利用して空中を推進するから……。
半ば心配しながら、柄にくっついたハンドルを握り、槍に跨がる。
「トリガーを引けばアクセル。放せばブレーキになるからね♪」
「お、オッケーです」
わずかに声を震わせつつ、恐る恐るトリガーを引いた。
……──ボッ!
背後の対称刃から火が噴き上がるような音がして、両足が床から離れる。
「…わあッ!?」
と、ととと飛んでる───!! 私、飛んでる!!!
「す、すごーい!」
私は最近まで教科書とペンを持っていた普通の女の子だ。
空を飛ぶだなんてちょっと信じられない。
「ふっふっふっ~。スゴイでしょ?」
ふわふわと室内を浮遊する私を見上げて、コムイさんは自慢げに笑う。
「加速したい場合はトリガーを長引きすればいいだけだからね。急ブレーキするときは気をつけてね~」
「はーい!」
コムイさんからの説明を聞きながら、左右への旋回や、上昇下降を幾度か繰り返し練習したところで再び床に降り立った。
「どうだい? 気に入ってくれた?」
「はい! そりゃあもうすっごく!!」
感激と興奮を隠しもしないで子どものように振る舞ってしまった程だ。
「じゃ、最後にひとつ」
ピッとコムイさんが片手の人差し指を立ててイタズラっぽく口角を上げる。
「……?」
頭にクエスチョンマークを浮かべた私に向けた笑顔を崩さずに、コムイさんが手に取ったのは、広辞苑サイズの本。
「ミュアちゃん」
「…な、なんでしょう?」
「ちょっとだけ、ゴメンね?」
……な、なんだ。
何のゴメンだそれ。
そう疑問に感じた時、私の眼前に迫っていたのはコムイさんがたった今まで持っていた本だった。
そう、コムイさんが私に向かってぶん投げたのである。この本を。
「ッ!」
とっさに両手に持っていた槍を前に突き出し、盾代わりにしようとしたら…。
──バチッ!
当たる寸前、空中に火花を散らして本は何かに遮られたような動きを見せて床に落ちた。
「……?」
な、何……今の。
最初のコメントを投稿しよう!