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夜──星がチラチラ光る空の下でクロスさんを見送る。
「いつ出発するんだ?」
「明日…いえ、明後日の朝に。学校に退学届出さないといけませんから」
「そうか」
クロスさんは元々あまり口数の多い人ではないが…なんとなく、今夜はいつになく無口な気がした。
「オレは日本──江戸に向かう。お前も達者でな」
「江戸……」
海の向こうの島国は私にとって未知の世界だ。
一体何があるんだろうか。
「クロスさん、何をしにそんな遠くまで行くんですか? 遊びに?」
「仕事に決まってんだろーが」
あ、仕事なんだ。
「とにかく……お前のイノセンスはまだ微調整が必要な代物だ。本部でちゃんと武器化してもらえよ。それまではなるべく発動を控えるんだ」
「はい」
大剣を収めたギターケースを背中に掛けて、敬礼をした。
そして、改めてお辞儀をする。
「短い間でしたが、ありがとうございました」
頭を下げた私に、クロスさんはずいと小さな木箱を突きつけてきた。
「オレが去ったら、開けろ。…じゃあなミュア」
「さようなら、クロスさん!」
くるりと背を向けて、クロスさんは歩き出し、やがて闇の中に消えた。
「さて、と。……ん?」
いざ開けようとしたら、木箱にカギがかかっているではないか。
「ちょ、これじゃ開けられないじゃん! クロスさーん! カムバッ──ク!」
シーン。
当然、戻ってくる気配は無い。
「……逃げたわね」
どうしょう、この木箱。
開かない箱渡されても、どうしようもないんですけど。
途方にくれていたら、ドルチェが翼を羽ばたかせて箱に近づいてきた。
かと思えば、パカッ。
大きな口を開けて、鍵を吐き出した。
…どうやって持っていたんだ。
「でも、これで箱が開か…ない」
箱に付けられている錠前とドルチェが吐き出したキーの鍵穴が合わない。
「何これ──!」
為す術もなく、雄叫びを上げるミュアだった。
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