なにかひとつだけでもあれば……

3/9
前へ
/11ページ
次へ
いつか、いつだったのか。 涙はいくら流しても、渇れなくて、それどころか際限なく溢れてくる。 そのせいで、わからなかったんだ。 薄暗かったはずの空間が、白けていく。 暖かな光が、溢れてくる。 止まることのなかった涙が、溶けるように消えていく。 ずっと伏せていた両目が、みるみる丸くなり、輝いていく。 青白いほどに透き通っていた頬に、朱色が染みていく。 遠く、霞むほどに遠い場所に、見えたからだ。 探していたものではない。 でも、求めていたものではあった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加