なにかひとつだけでもあれば……

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せっかく見えたのに、遠くて遠くて……。 まばたきしたら、消えてしまうのではないかと思うと、一時も目を離せない。 消えてしまうのは嫌なのに、近付く事もできない。 でも。 何もない空間に伸ばしていた手を、きゅっと握る。小さな握りこぶしが震える。 立ち上がること、前に進むことを諦めていた足に、ゆっくりと力を入れていく。 どうか、どうか。 ぼくを、ぼくのすべてを愛してくれる人でありますように。 どうか、どうか。 ぼくの、ぼくのからっぽな心が見透かされませんように。 小さな足がやがて、今まで流した涙が溜まった硬い地面を踏みしめる。 そうしてゆっくりと、前に進む。
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