なにかひとつだけでもあれば……

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何度も転びながら、にじむ涙を拭いながら、懸命に進む。つらい。でも、やっと見つけた。だから、諦めたくない。 すぐそばまで近付けたときには、すっかり疲れてしまった。 でも、もう目の前だ。 あなたの驚く顔をぼんやりと見ながら、ぼくはまた涙を流した。 なぜ、泣いているの? と、あなたが問いかける。 ぼくは、その答えを持っていない。 ……だって、ぼくには、なんにもない。 「ぼくには、なにもない」 神様は、ぼくに与えてくれなかった。 「あなたに、愛してもらえるようなものを……なにも、持ってない……」 それがただ、悲しくて。ほろほろと両目からこぼれていく。 ほんの小さなものでもよかった。 他人に自慢するようなものじゃなくても。 ただ、自分が誇れる唯一のものが欲しかった。 神様は、不平等だ……。 飾りなんかなくてもいい。 どんなに小さくてもいい。 色なんか地味でいい。 みすぼらしい箱でいい。 なのに、ぼくの手にはなにもなくて、形として見えるものがなくて。 これじゃあ、あなたに、愛してもらえない……。
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