なにかひとつだけでもあれば……

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あなたは、微笑んでいるように見えた。 なにも持っていなくても、いいの。 例えば、はじめて空を飛んだ鳥はきっと、背中に羽があるからといって、自分が空を飛べるだなんて思いもしなかったわ。 あなたがなにも持っていなくても、思いもよらないことが出来るかもしれないわ。 ……例え、そうじゃなくても。 私には、私たちには、あなたが宝物。 あなたが大きな声で泣いて、顔をしわくちゃにして私と出会ってくれたなら。 それだけで、きっと。 どんなものにも劣らない、神様からの贈り物だわ。 ふわりと、抱き寄せられて、つつまれる。 心地のいいぬくもりと、とくんとくんと伝わる優しいリズム。 「神様は、ぼくになにもくれなかった、けど……そんなぼくでも、愛してくれますか」 目を閉じて、心に不安を抱く。 問いかけながら、その問いの答えは、じんわりと染み込んでくるように、伝わってきた。 ……あぁ、だいじょうぶ。 不安は、ゆっくりと溶けていく。 ぼくもゆっくりと、眠りにおちていく。
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