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俺は頭を振って、窓から離れた。
翌日、学校から帰ると母が何とも言えない妙な顔をしていた。
「何だよ、母さん。そんな変な顔して」
冷蔵庫から麦茶を取り出し、洗い物をしている母に声をかけてみた。
「それがね。午前中に、ご近所に引越しのご挨拶に行って来たのよ。でね、ここに越して来たって言うと、みんな妙に緊張した顔するのよね。どうしてかしら?」
ぬれた手をタオルで拭きながら、母は首をかしげた。
「前にここに住んでた人が、ご近所さんと折り合いが悪かったんじゃないの?」
「そうかしら? でも、何か変なのよね。こっちを探るような感じで」
「やだ、お母さん。ご近所トラブルとかに巻き込まれないでよ」
リビングでTVを見ていた妹も、口を挟んでくる。
「考えすぎじゃないの? 新しい住人が来たから、みんな、どんな人なんだろうって様子伺ってんだよ。気にする事ないさ」
俺はそう言って、空になったグラスを流しで洗った。
「そうよね。お母さんの考えすぎよね。慣れない環境だから、きっとまだ緊張してるんだわ」
無理に自分を納得させようとしているのか、笑って見せた母の顔は少し引きつっていた。
でも……気のせいじゃないって事は、すぐに明らかになっていった。
「お兄ちゃん、あたしの部屋に入った?」
数日後、妹が風呂上りの俺にたずねた。
「いや。何で俺がお前の部屋に入るんだよ?」
引越しが終わってこの方、妹の部屋には入っていない。せっかく自分の部屋が出来たのに、今さら妹の部屋に入る用事もないし。
「そう……だよねぇ。お母さんも入ってないって言うし」
「どうしたんだよ?」
俺が水を向けると、妹はじっと床を見つめながら口を開いた。
「置いた物の位置がね。変わってるの。全然違うところにあったりするのよ」
「お前の記憶違いなんじゃねーの?」
「そんな事ないよ。宿題で使ってた辞書が、ご飯食べて戻ってきたらベッドの上にあったりするんだよ。しかも、開いたページを下にして。それにタンスの引き出しがキチンと閉まってなかったりするし」
「だから、お前がちゃんと閉めてなかっただけだろ?」
「違うって! だって冬物の引き出しだよ? 開けないって」
引越しの時に、またすぐに衣替えをするのは面倒だと言って、妹が冬物の衣類をタンスに仕舞ったままにしているのは知っていた。
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