カゾク ノ イエ

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「今日からここが『我が家』だぞ」  トラックから降り立った父が、玄関に立って胸を張った。 「お父さん、どいてよ。荷物が運べないでしょ」  母が段ボール箱を抱えて、父の背中に声をかける。 「あたしが鍵開けてくるー」  はしゃぐ妹の声。パタパタと軽い足音を立てて父の隣をすり抜け、玄関へと走る。 「へー、思ってたよりいいんじゃない?」  俺は頭に巻いたタオルの位置を直しながら、父の横に並んだ。  それまでアパート暮らしをしていた我が家は、俺が高校に入学し、妹が来年から中学生になる事もあって、引越しを決意した。 「さすがにこのアパートじゃ、手狭よね」 「いつまでも兄妹が同じ部屋って訳にもいかんしな」  数年前から『家を買おう』という話はしていたが、よくあるサラリーマンの夢物語だと思っていた。  だが両親はどうせ引っ越すのなら、と一念発起して家を買う事を決意したらしい。  とは言っても、我が家の経済状況を鑑みれば、とても新築物件なんかには手が届かない。  色々と探し回って見つけ出したのが、今、俺達の目の前に建っている『家』だ。 「掘り出し物だったのよぉ」 と母が嬉しそうに荷造りしている時に話していた。 「あの立地で、あの値段っていうのはなかなか出ないだろうからなぁ」  これからのローンを考えてか、晩酌をビールから発泡酒に切り替えた父がしきりと頷いていた。  駅から徒歩15分圏内。商店街も近く、自転車でちょっと足を伸ばせば大型ショッピングセンターもある。バイパスへの接続も良く、申し分のない立地だ。  もちろん『中古物件』ではあるのだが、築浅で他に買い手がつかなかったのが不思議なくらいの価格だ。 「うちは運が良かったんだね」 と家族全員で喜んだ。  リフォームの必要もないから、すぐに住めるわよ。そう言いながらお茶を出す母の顔は、本当に楽しそうだ。 「アパートとは違って台所が広いから、料理するのが楽しくなるわね。お菓子なんかも作ってみようかしら」 「あたしも自分の部屋、もらえるんだよね?」 「何だよ、俺と一緒の部屋じゃ不満なのかよ?」 「だって、お兄ちゃんと一緒の部屋じゃ、友達だって呼べないじゃん。それに、お兄ちゃんってば、寝てる時オナラするんだもん!」 「そりゃするだろうよ、人間なんだし!」  和気あいあいとした家族の風景。こんな風景がこれからも続くと思っていた。  新しい家での生活の中で。
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