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「早く荷物運んじゃいなさい。暗くなる前に、一通り終わらせたいから」
母の声に、自分の荷物の詰まった段ボールを抱えて家に入る。
1階はリビングダイニングと和室、トイレ、風呂、洗面所。2階は6畳2間と3畳の納戸、トイレ。4人で暮らすには充分過ぎる間取りだと思う。
階段を上がる俺に、階下から父の声がかかった。
「2階は窓開けて、空気の入れ替えしとけよ」
「おう」
階段を上がり、廊下を挟んだ左側が俺の部屋になる。
ドアを開けると、薄暗いガランとした空間が広がる。家具のない部屋って、どうしてこんなに広く感じるんだろう。
手にしていた段ボールを床に置くと、ベランダに繋がる窓を開けた。アルミの雨戸に触れると、日光に温められたのか生温かい。
「くっ、……しょっと」
建てつけが悪いのか、しばらく動かしてなかったせいか、どうにも滑りが悪い。力任せに雨戸を開けると、部屋の中に陽光が差し込み明るくなった。
「ふう、やっぱ気持ちいいな」
窓から部屋に風が通る。
「うし。どこに何を置こうかね」
部屋の中を見回して、色々と考えを巡らす。
タンスはどこで、机はどこ。カーテンの色は何色で、本棚は……。
これまでは妹と共同だったから、自分の好き勝手に部屋を飾る事は出来なかったし。その分、どんな部屋にしようかと考えるのは楽しかった。
「お兄ちゃーん、部屋のドア開けてー」
廊下から、妹の呼ぶ声がする。きっと荷物で手がふさがってて、ドアが開けられないんだ。苦笑しながら足を踏み出そうとした瞬間、部屋の中が陰った気がした。
────……。
背中を寒気が伝う。
何だ?
窓から差し込む風が、急に冷たくなったように思える。
……誰かが、見てる?
俺の背中を、じっと見ている視線を感じる。様子を伺っているような、ジットリとした視線。
俺は窓を振り返った。
ごく一般的な2階建ての戸建て。周囲には同じような家が立ち並び、こちらを覗こうと思えば簡単なんだけど。でも人の家の中を、そんなにしげしげと眺めるもんか?
「ああ、そうか。空き家に引っ越してきたから、好奇心ってヤツ?」
そうだ。
そうに決まってる。
それ以外に、他人の家の様子をジロジロ眺める必要性を感じない。
無理矢理、自分の考えに結論を出したその時、
「お兄ちゃん、まだぁ?」
廊下から、じれた妹が再度声をかけてきた。
「ああ、悪い。今いく」
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