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ちょっと埃っぽかったけど、採光もよく、部屋は明るい感じだ。
「さっさと荷物運び込むぞ」
荷物と言っても、大した物はない。タンスと卓袱台、布団、食器などの台所関連、掃除機、衣類の入った段ボール、冷蔵庫、洗濯機、TV。
数えられるほどだ。その他の細々した物を運びこんでしまえば、それで終わる。
不動産屋が引越し前に掃除をしておくと言っていたので、運び込んだタンスに段ボールから衣類を突っ込み、残りを押し入れに仕舞いこんだら終了。
「俺ちょっと、挨拶行ってくるわ」
出掛けに買った菓子の袋を持って、Nさんは隣の部屋のチャイムを押した。
「はい?」
ドアから顔を覗かせたのは、ヒョロリとしたやせぎすの男性。年齢はNさんと大して変わらないだろうと思えた。
「あ、すみません。102号室に引越してきましたNと言います。よろしくお願いします」
Nさんが菓子袋を差し出して頭を下げると、男性は「ああ、どうも」と言いながらドアを開き袋を受け取った。
「学生さん?」
「はい、今年から●●大学の方へ」
「ああ、そうなんだ。ゴミ日とか分かる?」
「ええ、一通り説明は受けたんですけど。何かあったら、教えてもらえますか?」
「うん、そんなに細かい決まりはないけどね。俺も学生だし、夜とかバイト行っちゃうけど、なんかあったら聞いて」
ありがとうございます。と返答するNさんに、じゃあ、と手を振って男性は部屋に引っ込んだ。
103号室は空き部屋になっているらしく、ドアの新聞受けには目張りがしてある。電気メーターも回っていない。
Nさんは階段を上がると202号室のチャイムを押した。
「あ????」
だるそうな顔でドアを開けたのは、キャミソール姿に長い髪を茶色に染めた若い女性だった。
こんなアパートに女性も住んでるんだ。そんな事を考えていたNさんは、対応がわずかに遅れてしまった。
「何よ、あんた?」
そんなNさんに、女性は胡散臭そうな視線を寄こした。
「あ、あの、すみません。下の102号室に越してきました、Nと言います」
慌てて手に持っていた菓子袋を渡す。
「あぁ。なんだ、そうなの」
菓子袋を受け取って、女性の態度があからさまに変化する。
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