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「こんな時間に家に来るなんて、お店の変な客かと思っちゃったわよ」
「え?」
「ああ、あたし、キャバクラに勤めてるから。いるのよねぇ、家まで押し掛けてくる客とか」
圧倒されたNさんは、「そうなんですか……」と言うのが精一杯だった。
是非、お店に来てね。と名刺を渡されそうになり、まだ学生ですからと逃げ出したNさんは大きく息をついた。
自室で待っていてくれた友人に事のあらましを説明し、ひとしきり笑った後、手伝ってくれたお礼を兼ねて食事に行く事にした。
食事をおごると言っても、そこは貧乏学生のNさんの事。豪勢な食事をするわけにもいかず、引越しを手伝ってくれた3人の友人とNさんの4人で商店街の中で見つけたラーメン屋に入った。
「おじさん、チャーシュー麺4つね!」
テーブルにつくなり、友人の1人、Oが厨房の店主に声をかける。
「いらっしゃいませー」
おばさんがテーブルに置いてくれたお冷を、全員が一気に飲み干した。
「あー、うめぇ」
「生き返るなー」
目を丸くしたおばさんが、それでもお冷のお代りを注いでくれた。
「しかしお前、丸々1日こき使っといて、そのお礼がチャーシュー麺って」
「いや、悪いとは思ってるよ」
ガタイのでかい男が4人。確かにチャーシュー麺だけじゃ不満も出るかもなぁ。だがこれ以上の出費は、正直苦しい。
そんな思いがついつい顔に出てしまったのだろう。
「まあまあ、勘弁してやれよ。俺達だって似たようなもんだろ?」
高校時代から付き合ってた、気心の知れた友人同士。それぞれのお財布事情までお見通しって事か。
Nさんは苦笑いするしかない。
友人達が好き勝手な事を言い合っているうちに、湯気を立てるチャーシュー麺がテーブルに運ばれてきた。
寂れた店構えのくせに、ラーメンの味は非常に満足のいくものだった。麺の上に乗せられたチャーシューの厚みに顔がほころぶ。
これはいい店を見つけた。
自炊が苦手なNさんは、うまいラーメン屋を見つけたと喜んだ。
空腹だった事もあり、夢中で麺をすするNさんに、それまで静かに口をつぐんでいた友人Kがためらいがちに言葉を発した。
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