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深夜2時を回った頃だろうか。
Nさんはふと目を覚ました。
誰かがトイレにでも行ったのだろうか? その気配で目が覚めてしまったのか?
改めて眠ろうと寝返りを打ったNさんの耳に、畳を歩き回る足音が聞こえた。
(誰だよ、うるせーな)
何といっても狭い6畳1間の部屋だ。
4人も転がってれば、少しでも快適に眠ろうと場所を移動するヤツもいるかもしれない。
仕方ないな。
そう思ってNさんは訪れた睡魔に身を任せた。
翌朝、かわるがわる台所で顔を洗っている友人達に向かって、Nさんはあくびを噛み殺しながら言った。
「おぉい、誰だよ。夜中、部屋の中歩きまわってたの?」
タオルで顔を拭っていたOさんが、怪訝そうな表情で見返してくる。
「はぁ? 何言ってんだよ、N」
「夜中の2時頃、ゴソゴソ歩きまわってたヤツいるだろ?」
「知らねーよ。俺、疲れて眠り込んでたし」
「俺も……」
結局、誰も夜中に部屋を歩き回っていない事が分かった。
「じゃあ、何だったんだよ?」
まさか本当に、Kの言ってたような──。
「ここ、築年数そうとういってるし、壁も天井も薄いからな。隣と上、夜の仕事なんだろ? きっとその音が響いてんだよ」
友人のTさんがそう言って、Nさんの肩を叩いた。
「そ、そうだよな。夜って他に音がしないから、響いたんだよな」
引越し早々、これから住む部屋にケチをつけたくはない。
わずかに納得できない思いを胸の奥底に押し込み、無理矢理納得する事で「日常」を確保することにしたのだ。
部屋代、引越し代は安くすませたが、日々の生活にだって金はかかる。サークルなんぞと無駄な時間も金も使っている場合ではない。
Nさんは毎日の講義が終わると、商店街でみつけたバイトに明け暮れた。
ありがたいのはバイトに採用されたトンカツ屋で、夕食はまかない飯がもらえる事だった。
土・日は引越し会社でバイトをし、アパートに帰り着く頃にはヘトヘトになり、ただ布団に潜り込むだけの毎日。
体もくたくただが、頭も疲れきってうまく働かない。いつも頭の芯が重たく痺れているような気がして、日々、決められた工程をどうにかこなしているだけ。
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