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どれくらい時間が経っただろうか。
Nさんは布団の中でハッと目を覚ました。
全身汗だくで、身に着けていたTシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。
どうして目が覚めたのかも分からず、Nさんはシャワーでも浴びて着替えようとして、自分の体が動かない事に気がついた。
金縛りか?
目は覚め、意識もはっきりしているのに、指一本動かす事も出来ない。額から耳にかけて汗が流れ、むず痒さが気持ち悪さを増長する。
何とか体を動かそうと躍起になっていると、耳が微かな音を拾った。
静かだった空間に、延々と続く音。
カリカリカリカリカリカリ……
何かを引っ掻いているのか?
体が動かせない分、聴覚に神経が集中する。
(音が……近付いて来てる?)
隣の部屋の壁を引っ掻いているような音。それが自分に向かって移動している気がする。
ガリガリガリガリガリ……。
視界ギリギリまで眼球を動かして音のする方を見てみる。
(もしかしたら、隣の人が何かしているのかも知れない。きっとその音が響いてきてるんだ。ここは壁も薄いし、音が良く聞こえるから。きっとそうだ)
無理矢理、自分を納得させようとするNさんの努力をあざ笑うように、益々音は大きくなる。いつの間にか音は、壁を引っ掻くようなモノから床を這いまわるようなモノに変わっていた。
音の出所を確かめようと、精一杯眼球を動かすが見えてはこない。それがさらに、Nさんの神経をすり減らした。
見えたら見えたで、正視に堪えないものかも知れない。
しかし、見えないというのは余計に恐怖心をあおるのだ。
ザリザリザリザリザリザリ……。
Nさんが寝ている布団の周りを何者かが這っている。
「ソレ」はNさんの足元側から、徐々に頭の方へ向かって移動してくるようだった。
緊張しながら一点を見つめていたせいだろうか、目がズキズキしてくる。
ザリザリザリ……ザリザリ……ザリ……。
何かを確認するように、音は鳴っては止まり、止まっては鳴る。
流れてきた汗が目に入り、しみる。だが、その汗を拭う事も出来ない。ただ、音の正体を見極めようと、目を見開く事しか。
自分の寝ている布団の足元から、どす黒い煙のようなモノがせり上がって見えた時、Nさんの全身に鳥肌がたった。
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