罪と嘘

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「ただいま……」  ドアを開けて、真っ暗な部屋の中へ足を踏み入れる。  温かく迎えてくれる家族はここにはいない。  部屋の電気を点けると、ガサガサと音を立ててコンビニの袋をコタツの上に置く。上着を脱ぎ、ネクタイを首元からむしり取ると、座椅子に沈みこんで首を回した。 「あー、疲れたなぁ……」  コタツのスイッチを入れると袋の中から弁当とビールを取り出す。  単身赴任になって2年。最初は家族に煩わされる事のない、1人の時間を持てるようになって純粋に嬉しかった。だが、それも数ヶ月の話だ。  帰宅しても誰もいない部屋。ドアを開けても灯りは点いておらず、寒々とした空間が待っている。話し相手もおらず、ただ淋しいからという理由だけでテレビを点けっぱなしにする。  食事はいつもコンビニで温めてもらった弁当。味気ない食事を1人で済ませ、ビールを流しこんで布団に潜り込む。  そんな生活を続けてきた。  都心に近い校外に家を買い、家族と移り住んで間もなく異動の告示が出された。妻と協議した結果、買ったばかりの家をどうする事も出来ず、高校受験を控えた娘、所属するサッカーチームで全国大会へのレギュラーの座を射止めた息子それぞれから、赴任地への引越しを拒否するという答えがもたらされた。  仕方ないと言えば、仕方がない。  娘がずっと希望の高校へ進むために頑張っていたのも知っていたし、息子がサッカーチームのレギュラーになって大会に出るのが夢だったのも知っている。  妻の言う事も、もっともだと思ったからこそ、単身赴任を受け入れた。  ──それでも、思ってしまう。『自分は家族にとって何だったのか?』と。  妻は月に数回、こちらへやってきて家事を手伝ってくれる。掃除、洗濯、数日分の料理。そして、私が帰宅する前に帰っていく。  確かに有り難いし、感謝もしている。家に高校生と小学生だけを残しておけないのも分かる。だが、亭主の顔も見ないで帰って行ってしまうのか?  考えれば考えるほど、気持ちが沈んでいく。  2本目のビールを開けた時、コタツの上に放り出していた携帯が着信を知らせるコールを歌い出した。  このメロディは……妻からではない。画面に表示された名前を確認して受話ボタンを押す。 「もしもし?」 『もしもし。もう休んでた?』 「いや、メシを食い終わったところだよ」 『またコンビニのお弁当?』 「ああ」
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