麗しの射干玉の

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 マンションの前まで後輩を送り、駐車スペースに停めておいたスクーターに乗って自宅へと戻る。「泊って行って下さいよ」という後輩を、今度は振り切った。  なんだかんだ言っても、まだ不安なのだろう。だけど、早く帰ってゆっくり横になりたい。  自宅であるアパートが見えてきた時、思わずホッとしてしまった。  部屋に入ると、ダルい体を励ましてシャワーを浴びる。熱いお湯を浴びていると、全身から疲労が抜けて行くような気がした。  修行を積んだ霊能者でもなんでもない私は、ああやって『向こう側の存在』と向き合うと疲れてしまう。普段は使わない神経をアンテナにしているからかもしれない。  禊の意味の込めて頭から勢いよくシャワーを浴びていると、少し気分が良くなった。  シャワーを終え、脱衣所で髪をタオルドライしている時、不意に背筋がゾクリとする。マズイ、風邪をひきそうなのかも。慌てて部屋着を着こみ、ベッドに横になった。  食事はさっき後輩と食べたケーキとコーヒーだけ。でも食欲もないので、そのままベッドに転がりながらテレビを点けた。  別に見たい番組があったわけじゃなくて、部屋の中に音が欲しかっただけ。バラエティ番組の笑い声をBGMに、いつの間にか眠りの底に引きこまれていた。  どのくらい眠っていたんだろう?  テレビは深夜の討論番組を映しているらしく、耳に男性が自論を展開している声が届いた。  ああ、テレビ消さなきゃ。  目を閉じたまま、手探りで枕許にあるであろうリモコンを探した。  シーツの上を動き回る私の指先に何かが触れた。リモコンの硬い感触ではない。指先に絡まるこの感触は……。 『ねえ、綺麗って言って』  聞き覚えのあるフレーズ。  私の意識は一気に覚醒した。  なぜか部屋の電気は消えている。テレビの照明に照らされたベッドの脇。 『ねえ、もう一度言ってよ。綺麗だって』 『彼女』が立っている。  長い髪を私の指に絡ませて。  嫌な予感が的中した。  連れて帰って来ちゃったんだ……。 『あなたなら言ってくれるんでしょ? ねえ、綺麗だって言ってよ』  私はベッドから飛び起き、『彼女』を睨みつけた。 「あんたってヤツは……」  どうやら『彼女』とは長い付き合いになりそうだ──。 ?了?
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