麗しの射干玉の

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 小さい頃から「地味な子」「目立たない子」と言われてきた。  2歳下の妹が明るく活発な子だったから、余計に私の「そういう部分」が際立ったのかもしれない。でも、それをコンプレックスに感じたことはなかった。  私は私だし、妹は妹。  元気に外で走りまわったり、大声で笑ったり、そんな事が似合う妹。  本を読んだり、絵を描いたり、そんな事が似合う私。  それでいいんだと思ってた。  妹は妹、私は私。  そうやって学生時代を送り、社会に出ても同じことを思いながら日々を送っていた。他人は他人、私は私、それでいい。って。 『あの子、暗いよねー』 『人づきあい苦手なんだって』 『って言うか、他人と付き合わなくても生きていけますってオーラが嫌な感じ』 『ああ、分かる分かる』 『いっつもスッピンでさ、よくノーメイクで出歩けるよね』 『だぁって、あの顔じゃメイクしたって仕方ないじゃない』 『メイクの方が負けちゃうよね、ある意味』 『言えてる?!』  キャイキャイと聞えよがしに囁かれている言葉。  そんな事、あなた達に言われなくったって自分が一番よく知ってる。  メイク……しないわけじゃない。したって似合わないのを知ってるから。  試してみたこと、あるもの。鏡に映った自分を見て、本当にガッカリした。慣れないメイクだったせいもあるかもしれない。だけど鏡の中から見つめ返してくる自分は、子どもがいたずら半分で人形に施した落書きのように思えて……それ以来、メイク道具には手も触れていない。  どうせ、私には似合わないものだから。  でも──一度くらいは「綺麗」だって言われてみたい。女に生まれたんだもの。私だって一度でいいから「綺麗」だって言われたい……。  日曜日。  大好きな作家さんの新刊が発売される日、私はバス停で予定時刻よりも遅れているバスを待っていた。  手にした文庫本に視線を落し、読むともなくページをめくる。  目の前の道路を大型トラックが通り過ぎ、風圧で伸ばしっぱなしになっている私の髪が舞う。クシャクシャになってしまった髪をまとめようとして、私は違和感に気がついた。  座っていたベンチにガムが付けられていたのだろう。日射しで暖められたガムは柔かく、私の髪に付着して絡みついてしまっている。慌ててバッグからティッシュを取り出し、どうにかガムを取ろうとしてみるが、付着した面積が広くなるばかりで一向に取れる気配がない。
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