麗しの射干玉の

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 しょんぼりとうなだれていた『彼女』はちょとだけ顔をあげると私を見た。そして、何事かを呟くように口を動かしたが、もう何も聞き取れなかった。  バスルームの床に塩の山を作って、『彼女』は消えてしまった。  思った以上にあっさりと引いてくれた。出会う手合いが全部こういうのだと、正直、助かるのだが。手にしていた袋を丸め、コンビニのビニールに突っ込んでパンパンと手をはたく。 「お、終わったんですか?」  ビクビクしながら後輩が私の様子をうかがってくる。 「んー、もう大丈夫なんじゃない? 消えちゃったし、『彼女』」  事の詳細を!とせがむ後輩に、私は早く帰ってゆっくりしたいと伝えたのだが……聞き入れられなかった。  まあ住んでいるのは後輩なわけだし、どうなったのかを知りたいというのは当然の権利だわな。  仕方なく、近所のファミレスへ向かう。  これも辞退したのだが「お礼くらいさせて下さい」という後輩に押し切られてしまった。コーヒーとケーキで当分補給しながら、何があったのかを後輩に説明する。  こうやって口にすると、我ながら嘘臭いな。 「じゃあ、あの部屋に問題があるわけじゃないんですね!?」  身を乗り出して聞いて来る後輩に、部屋には何の問題もないことを告げる。 「良かったぁ。部屋がダメで、引っ越さなくちゃいけなくなったらどうしようかと思ってました。越して来たばっかりでお金ないし。ホント、良かったぁ」  ホッと胸を撫で下ろしている後輩に笑いかけてから、私は視線を窓の外に移した。  店の前には交差点があって、ひっきりなしに車が行き交っている。信号が変わり、停止線で大型トラックが停まるのを見て「ここって大型の交通量、多いんだな」などと暢気に考える。やがて青信号でトラックが動きだした時、信号機の根本に花が供えられているのに気が付いた。  すっかり萎れて茶色くなってしまった花。それはこの場所で死亡事故があったことを示唆している。もしかしたら、『彼女』はこの交差点で死んだのかもしれない。  そんなことを考えて、私は頭を振った。  せっかく送ったのに、また呼び戻しちゃうじゃないか。  頭の隅を嫌な予感が掠めたが、極力意識に昇らせないようにして後輩との会話を終える。
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