第1章

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     一 「よすがって、何ですか?」  拾ってきた女が、寝惚け眼のまま不可解そうにいった。  いきなり、よすがと訊かれても直ぐには答えられなかった。一瞬、何のことか分からず、狼狽えるほどではないが女の顔をしげしげと見た。    雨に濡れた髪はべっとりと顔にくっつき、薄気味悪く不気味だった。着ている服はぐっしょりと濡れていて、ここまで呑むかと呆れるほどぐったりと酔いつぶれていた。  そんな女をそのまま部屋に上げるわけにはゆかず、衣服を脱がせることにした。  素肌を見てしまうことに、いくらか気が咎めたが、風邪を引かせるよりはましかと勝手に納得して剥ぐことにした。  一旦、玄関の床に女を寝かせ、奥に走ってヒーターを取って来た。季節はまだ三月の半ばとあって、書斎机の下に足元を温める小さなヒーターが置いてあった。  寒がりで用心深い男は、抽出の下側に銀紙を貼って火が着くのを防いでいた。  そのヒーターを寝転んでいる女のそば近くに置いた。女は起きる気配はなく、鼾こそ掻かないものの寝入っているようだった。  町角でうずくまり寝込んでいた女を見つけたとき「駐在所」が脳裡を過ぎったが、あいにく携帯電話は持って来ていなかった。早く温めてやるのが先だと家に帰り、車を出して連れて帰ったのである。  交番は戦後しばらく町内に置かれていたが、三人いた巡査が年とともに減り、六千人ほどいた住人が三千人を切ると、いつの間にか駐在所に格落ちしていた。  あの活気はどこへ行ったのか、町は寂れ漁師相手の飲み屋通りの灯も消えかけている。  まさしく剥ぐという行為そのものだった。  べったりとくっついた服を毟りとるようにして剥いだ。それでも女はぴくりともせず、知らぬが仏とばかりに眠っていた。どう考えても狸寝入りとしか思えない。  上から一枚ずつ剥いでゆく。あと一枚で素肌だと思うと、手の動きがぎこちなくなった。人助けと思っても、見知らぬ女を裸にしている、見たところ三十前後の女だった。  女しだいでは良からぬ嫌疑を掛けられる状況だった。  男は思い切って女の下着を剥いだ。  そこに現れたのは小ぶりの乳房だった。小粒の乳暈が取り巻き、その中心に控えめな乳首があった。さほど男の手で荒らされていない盛り上がりが、男を誘っているようであった。       
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