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 一回戦の試合は順調に進んでいった。波乱はなくおおよそ事前の予想通りの結果が続く。タツオは次第に近づいてくる自分の試合にむけて、気力を充実させていた。  2000人以上収容する大講堂はヒートアップし、夏林のセミの声のようにわんわんと歓声が響いていた。タツオは貴賓(きひん)席に目をあげた。周囲を防弾ガラスで囲まれ、座席の背もたれに白いカバーがかけられた席の右端に、カザンの妹・サイコの顔が見える。  その隣に座り、じっと会場に視線を送る男の顔を見て、タツオは衝撃を受けた。さっきまではそこは空席だった。カザンとテルの試合の途中でやってきたのだろうか。作戦部の制服を着た逆島(さかしま)家の長兄・継雄(つぐお)である。ツグオがなにか話しかけると、サイコが硬い表情でうなずき返した。
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