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とりあえず、事実かどうか分からない井上博士の記事を来週発売に間に合わせる約束をし、
「菜月ちゃんに何もするなよ」
ほんとは、欲しかった万人に効く新型インフルエンザの抗薬剤も諦めて
「バカな男……母親よりも、色恋の欲に走るからよ」
また、一方的に切られた電話を見つめて、
ノソノソと、雪さんの車に近づく。
「…………雪さん、俺を光文舘で下ろしてくれる?もしくは、車乗り捨てた場所に」
とりあえず記事を発売週刊誌に載せなきゃ何にもならない。
「菜月は……?」
「記事を載せたら直ぐに返すって……」
「そんな脅迫信じられない!その女にまた電話して!居場所教えて!」
…………雪さんの目に、
俺の姿はない。
「…………知ってる場所は全て教える。
だけど、活動場所を移動してる可能性もある。
そして警察には言わない方が菜月ちゃんやユウさんのためだと思う。」
彼女の全身から伝わる母性は、
俺が受けられなかった愛____
「…………ユウ?なんで、ユウまで?」
「ごめん……ユウさんの体に、あの女が発明した抗インフルエンザ剤がきかなくなる薬を入れたのは、
…………俺なんだ……」
その愛も、
欲しかった、
幼い心________
「一体、何が目的なの?!」
雪さんの絶望に似た色をした瞳と、
白い手による平手打ちが、
「…………ごめん……」
俺の大人の部分を開かせてくれる。
「私が治療薬も、菜月も、手に入れてみせる……」
それでも、
知っている情報を、全て 雪さんに教えることしかできなかった。
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