再会

8/11
前へ
/11ページ
次へ
「何もしてないっ!」 俺とユウさんに凄まれて、いつものふてぶてしさが消えた村上さんは、 こうやって見ると、 ただのショボいオッサンだ。 「……そんなわけないだろ?あの篠崎も得にならない嘘は言わないはずだし」 「知らねぇ!あの女が血迷って突っ込んだんだ!」 あくまで自分の非を認めない大人の男。 「なんか、この部屋凄い」 律子と電車マニアは退屈そうにマンションの部屋へ入っていく。 「病院で、確かにあの女は あんたに媚薬を飲まされた雪が事故を起こしたって言ったんだぞ?」 こんな奴が会社の一番近い先輩だなんて、 悲しすぎる。 「だからっ!! あの女が、クスリでムラムラきてるくせにプライドが高過ぎて 俺は何もできなかったんだよ!!」 こんな男のせいで、 雪さんが命を落としたのだとしたら、 あまりにも切なすぎる世の中だ。 ______ドンッ!!! 突如、 マンションの壁を叩いたユウさんを、 部屋の中の三人も、 俺も、 すぐその拳のそばに顔があった村上も 驚いて、声も出せずに、唾を飲んで見つめる。 「″ 何も出来なかった ″ … ………そりゃ、そうだろ?」 顔に欠点等なく、まるで人形のように美しいフォルムをしたユウさんの横顔は、 __怖いほど、芸術的で、 「雪は、お前なんかが手出せるような女じゃない」 「…………っ……」 まるで 絵に描いた魔王のように、 憎悪に満ちた制圧感を醸し出していた。 「そして、 和哉、 お前もだ」 そんなユウさんは、 俺の雪さんへの気持ちも、お見通しだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加