40人が本棚に入れています
本棚に追加
「何もしてないっ!」
俺とユウさんに凄まれて、いつものふてぶてしさが消えた村上さんは、
こうやって見ると、
ただのショボいオッサンだ。
「……そんなわけないだろ?あの篠崎も得にならない嘘は言わないはずだし」
「知らねぇ!あの女が血迷って突っ込んだんだ!」
あくまで自分の非を認めない大人の男。
「なんか、この部屋凄い」
律子と電車マニアは退屈そうにマンションの部屋へ入っていく。
「病院で、確かにあの女は あんたに媚薬を飲まされた雪が事故を起こしたって言ったんだぞ?」
こんな奴が会社の一番近い先輩だなんて、
悲しすぎる。
「だからっ!!
あの女が、クスリでムラムラきてるくせにプライドが高過ぎて
俺は何もできなかったんだよ!!」
こんな男のせいで、
雪さんが命を落としたのだとしたら、
あまりにも切なすぎる世の中だ。
______ドンッ!!!
突如、
マンションの壁を叩いたユウさんを、
部屋の中の三人も、
俺も、
すぐその拳のそばに顔があった村上も
驚いて、声も出せずに、唾を飲んで見つめる。
「″ 何も出来なかった ″ …
………そりゃ、そうだろ?」
顔に欠点等なく、まるで人形のように美しいフォルムをしたユウさんの横顔は、
__怖いほど、芸術的で、
「雪は、お前なんかが手出せるような女じゃない」
「…………っ……」
まるで
絵に描いた魔王のように、
憎悪に満ちた制圧感を醸し出していた。
「そして、
和哉、
お前もだ」
そんなユウさんは、
俺の雪さんへの気持ちも、お見通しだった。
最初のコメントを投稿しよう!