70人が本棚に入れています
本棚に追加
今まで、美しいものを作品として残す仕事を多くこなしてきたけれど
時に写真館での依頼の中に、
飼っている動物 (主に犬猫)の写真集を作ってくれと頼まれることがある。
動物は、好きでも嫌いでもない。
強いて言うなら猫の方が好きだ。
……そう、
犬は時には大きすぎたり、獰猛そうで怖いと思うものもいる。
そして
野犬を見れば、確かに
″ 噛まれたらヤバい ″という認識が働いて逃げたくなるのは、
この狂犬病という、恐ろしい名前の病を知ってしまっているからだ。
「父さんを殺したのはお前だっ!!消えろっ!!」
日本がそれに関して清浄国31の中に収まり、
その恐怖が薄らいでいても、
世界では確かに広がりつつある病。
「和哉くん!!ちがう!!
あなたのお父さんを殺したのは、
お母さんをそそのかした堀内でしょう?!」
俺が好きな 猫 からも感染して、
発症することもあるのだそう。
「うるさいっ!!!」
俺に飛びかかろうとする和哉を、
雪が止めに入ろうとする。
「雪っ!!!和哉に近寄るなっ!!」
…………雪を抱いていて、
時折、真冬の猫みたいだと思ったことがある。
暖房をOFFにした寝室は
寒くて、凍えそうなのに、
雪の体が俺の胸に心地よくのしかかると、
そこからジワリと、
温かさと優しさを感じて、
猫を抱いているような
幸せな気持ちになれたんだ。
「和哉っ!!その女もあなたの家庭を壊した張本人でしょ??
刃を向けるなら一人だけじゃないはずよっ!!」
篠崎美和の挑発する甲高い声が和哉の動きを止める。
「…………ハァハァ……」
幻覚症状と全身の痙攣が始まった和哉は、
ワクチンを接種しても、
恐らく、もう助からない。
____バタン!!
「かずやー!!なにしてるの?くるしーの?」
そこへ、
開いたドアの隙間から、
今までどこにいたのか、
ご機嫌な菜月が入ってきてしまう。
「菜月っ!ダメ!?」「菜月!!」
全身麻痺から痒みに苦しむ和哉の虚ろな視線が、
愛しい娘と、
「歯が痒い!…」
猫のような瞳をした雪を、
ガッチリと掴んでいた。
「菜月っ!!!」
動物の本能は、
自分より弱いものを襲おうとする。
獣は、
幼い猫を狙った____
最初のコメントを投稿しよう!