本質

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「和哉くん!!」「和哉っ!その女から離れろ!!」 篠崎美和により、 進化した狂犬病ウィルスを接種させられ、通常の何倍も早く発症してしまった和哉くん。 「くそ………美和をやってしまったか」 狂犬病患者が、ゾンビ映画のモデルだったと言われるほど、豹変してしまう致死率100%に近い病、 恐らく、自分が今、何をしてしまったのか、 全くわかっていないんだと思う。 「痒い!助けて!」 身体中の皮膚の麻痺が、あちこちを酷く掻かせてしまい、 和哉くんの口元と、爪の辺りは血だらけだった。 「和哉くん………」 篠崎美和により助けられた菜月をギュッと抱き締めて、 エイドリアンの背後に回る。 和哉くんに噛まれた篠崎美和は、 血だらけの首筋を押さえて、 震える身体で、変貌しきった、愛しい男の姿をじっと見つめていた。 「美和、ワクチンはあるのか?」 遠巻きに様子を眺めていたエイドリアンが、 和哉くんを注意深く警戒しながら、篠崎美和に、手を差しのべる。 「強毒化のサンプルはこれだけです……… 承認されれば富士薬品で製造してもらおうかと………」 悶え苦しむ和哉くんから少しずつ離れて、私や菜月と出口へ向かおうとするユウ、 もう、 和哉くんは助からないと思っているのかもしれない。 「サンプルは3つあるんだね。まず、君に接種しなくちや」 防護服のままエイドリアンは、 特殊なビンに入ったそのワクチンとやらをショックで動けない篠崎美和から受けとる。 「これを増やさないとね」 エイドリアンは、チラリと私たち親子三人に視線を移したあと、 「この際、桃田でも、美和でもいい。 水城を噛み殺してしまうんだ」 「え」 ドン!!と、 ユウを蹴り倒して、 私と菜月を抱き抱えるようにして、その惨劇の部屋を出ていこうとする。 「ユウー!」「パパ、転んじゃった!」 エイドリアンは、 和哉くんはおろか、 「って、何すんだよ!?」 同じ研究仲間だった篠崎美和まで、 殺人兵器として利用し、 見殺しにしまう気なんだ。 「君たちは三人ともキョウダイじゃないか、 死に方まで似てしまうのも、ありかもしれないよ」 パタン!! 「ユウー!!」 三人が閉められた部屋の中は、 既にもう、 血の匂いが 充満していた。
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