本質

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どうしたらこの男を消して、 早い段階でユウを助け出すことができるだろう? 「菜月だけでもここから出して」 「……あんな小さな子供を1人外に放りだすのか?そんな事がゆかりに出来るのか?」 別室のおもちゃで遊びだした菜月をみつめながら、 相変わらず、 私の事を″ゆかり″と呼ぶエイドリアンに、 「電話を貸してくれたら母親に来てもらうわ」 「ん?君の母親は九州にいるんだろ?」 ここへ来て初めて甘えたような声を出す。 「菜月のためなら、飛行機に乗って飛んでくるわ」 私や水城、和哉くんの身辺や関係も下調べして、近づいてきた真のテロリスト。 「君は、水城を失い、 娘と離れてここで暮らしていけるのか?」 この男に、知能的に太刀打ちすることなんか出来ない。 「菜月が、普通に幸せになってくれるなら、私はここで朽ち果てても構わない」 私の愛護心が、 全て娘に注がれたと思わせなければ、 「朽ち果てる ………こんな悲しい日本語はないよね」 ユウを助ける事なんか出来ない。 「君は、水城の死期を感じて ここで私の性パートナーになる決意ができたんだね?」 部屋の机に置かれたパソコン画面。 その画面から緊迫したユウと、豹変した和哉くん、 グッタリした篠崎美和の姿を確認しながら、 エイドリアンは 再び注射器を取り出して私に近付いてきた。 「そんなもの打たなくても、 何でも受け入れるから」 ___筋肉弛緩剤と若返りの薬。 「………まあ、君は今のままでも十分美しいからな」 注射器をケースに閉まったエイドリアンは、パソコンの画面も消して、 ゆっくりと私に近づいてくる。 「そこの電話を使うといい。外線は一番から七番だよ」 そして、 頷いて受話器を持った私を、 背中から羽交い締めにするように抱き締めてきた。 「″快華″は飲まなくていいのかい?」 紫色の媚薬から始まった、 ウィルスによる死への脅威と人口減少を企てたバイオテロ……… これを終止させるには、 やはり この男の一番弱いところを攻撃するしかない。 「そんなもの、飲まなくても 私は充分に感じることが出来るの」 「………ゆかり…」 最愛の女に、 愛されなかったという屈辱的な過去__ 私は、 背後から自分の胸に手を当てるエイドリアンに、 優しく口づけをした。 image=488935403.jpg
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