本質

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「何を打ったかは、知らない方がいいと思うわ」 「……″快華″じゃないんだろう?」 今のところ、 針が刺された小さな感触しかない。 予防接種よりも、痛みも少なかった。 快華は、わりと早い段階でみんな興奮してきたようだから、それではないと確信。 よく見たら、注射器を持つ篠崎美和の手は手袋がはめられている。 ウィルスなのか? 「…まさか…新型インフルエンザN5型か?」 篠崎美和は小さく首を横に振る。 「…………じゃぁ」 それとも、 今、他の諸国で感染者を増大させているエボラ出血熱か…… 「おい!!答えろよ!」 じわじわ押し寄せる恐怖から、 篠崎美和の肩を乱暴に掴みかかると、 どこかに消えていたはずの他の研究員の男たちが急いで現れて、 「離れろ!」 俺を篠崎美和から引き離した。 「美和……」 こんな呼び方をしたの初めてかもしれない。 「通常はね、感染してから二週間位で発症するのよ、人の場合。 だけど、私が生物兵器として作ったものは、早くて40時間で発症するわ」 「生物兵器……炭そ菌か?」 そんな俺を、 やや寂しげな瞳で見つめて 「いいえ。 日本では、昭和31年に猫に発症したのを最後に確認されてないけど、 感染源は、コウモリや牛からだってありえて、 世界ではまだまだ致死率90以上の、死亡する患者が多い病気なのよ、 ……この狂犬病って」 と、 よく聞く病名を口にした。 だけど、 その実態を知ってる人は少ないと思う。 「…………狂犬病……発症したらどうなるんだ?」
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