いっせーにょ! いちっ!

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   きっと女の子の方は、嫌です! とか言ってその場から逃げようとするのだろう。そして逃げようとした所で、腕を捕まれ……ヒーロー見参! だろ。いいね、アツイネ。物語の始まりを目の当たりにしちゃうかも。わくわくしながら周囲を見渡してみる。あれ? ヒーローが見当たらないな。 「……ふ」  私は何も知らない見ていない! 私は非力で日和見な只の村娘よ。男だけど。 「い、嫌です」  とかなんとか女々しく言い訳を連ねていると、透き通った女の子の声が耳に入る。その声は恐怖からか、微かに震えていた。  こんな公衆の場でインモラルな展開にならないよな? えっちぃのは駄目だ。俺が認めん。 「じー」  楓は様子を伺った! 不幸中の幸いか、まだ腕を掴まれているだけみたいだ。でも、このままだとそれだけで済むとは思えないよな。どうしよう。  何処ぞやのラブコメ主人公だったら、やたらとハイスペックで喧嘩もなんでも強い設定なんだろうけど俺そうじゃないから、精々『やめろYO!』とHIPHOPするぐらいが限界だ。  見捨てるのは寝覚めが悪い。良心の呵責に潰されちゃう。ホントどうしよう? 凝視して見守っていたら、やんちゃんと目が合った。  でも大丈夫だよね。ここは現実だし。ポケモ○の世界だったら目が合ったらバトルだけど、ここ違うし。 「なに眼つけてんだコラ?」  楓は絡まれた! 駄目じゃん現実なにやってんの! 同時に信号が青に変わる。  走り抜けようとした頃には既に手遅れで、視線を交わした結構お太りあそばされている怖そうなお兄さんを筆頭に、合計三人の怖そうなお兄さんが俺を挟んでいた。囲んでるんじゃないんよ、挟んでいるんよ。現実って厳しいんよ。  よく見ると、ふくよかな人はプーさんみたいだし、一人はゴボウ並に身体つきが細いから、怖い人は実質一人だけだな。でも、多勢に無勢。雰囲気だけでも怖いものは怖いのである。 「やんのかコラ?」  太ったお兄さん――長いしふくよかさんでいっか――が俺の胸ぐらを掴み、定番の台詞を吐く。肉感があれで、クッションを押し付けられてるみたいで不快じゃないけど、状況は最悪だ。 「あっ……」  女の子が俺の存在を認識して、吐息を漏らした。くりくりの大きな栗色の瞳は救世主の登場に喜ぶのでも、期待するのでもなく、生贄となる者を見るような心配を湛えている。正しい評価だと場違いにも感心した。
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