117人が本棚に入れています
本棚に追加
変わりたくないか、か……。
それは正直に答えれば変わりたい、だろう。
だが、人間はそう簡単に変われるものではないことを、僕は知っている。
「……変われるなら、変わりたいな。でも、変われないから、それなら、やり直したい、かな」
やり直せないことも、もちろん知っていたけど、つい口からそんな台詞が零れた。
僕の返答を聞いてにやりと口元を歪める奉日本。
「そっかそっか! じゃ、やり直しちゃいなよ」
あっけらかんとそう言った。
「……人生はやり直せない。そんなこと、誰だって知ってる」
「――いや、やり直せるさ。あ、でも、一回しか使えないから、よーく悩んで、もう一回を絶対に満喫してくれよ? 私も手伝うからさ」
なんだ、電波か……。
うちの学校の生徒会長は完璧超人だと聞いてたけど、そうでもなさそうだ。
まあ、噂には尾ひれがつくと言うし、仕方ないのかもしれなかった。
「あ、その目は信じてないね、君。生徒会長をなめちゃいけないぜ? 説明は面倒だから、これは強制だ。君の課題はそうだな……青春を見つけること」
青春、ね……。
僕には縁の無い言葉だ。
もう一回、本当にやり直せるなら死ぬ気で探してみてもいいかもしれない。
「はは……」
思わず微笑する。
そんな僕を見て、奉日本も笑った。
整った顔でする笑顔は逆光であまりよく見えなかったけど、それでも、なんとなく、眩しかった。
「それじゃ、一緒に行こうか――もう一回、中学時代へ」
その言葉と同時に、僕の視界は真っ黒になった。
最初のコメントを投稿しよう!