83人が本棚に入れています
本棚に追加
俺達はとりあえず、ストーブに薪をくべて暖をとる準備をした。天気予報は晴れだったけれど、山の向こうが少し暗い気がしたから、夕方にかけて天気が崩れるかもしれないと思った。それで、先にスケッチしたい場所を確認しようということになって、俺は自分のリュックに、サンドイッチとコーヒーのセット、折りたたみの椅子を2つとアウトドア用の小さな折り畳みのテーブルも入れて、一眼レフの大きなカメラは肩から下げた。
君はいつもの大きなスケッチブックを抱えて、リュックを背負っていた。
俺の小さなログハウスの後ろから、山の頂上に向かって、獣道を10分程進むと、2本のすごく大きな樫の木があって、その間を通り抜けると急に視界が開ける。
『わぁぁぁぁ。』
『な?』
『.........綺麗.........................』
『どう?俺の好きな場所。』
見渡す限りの銀世界、ぽっかりと空いたその空間は微かに碧い色をした純白の雪で埋め尽くされていた。
そこは、遠くに向かってなだらかな登り坂になっていて、その奥の方に大きな木達が、空に向かって手を伸ばしているかのような格好で立っている。
もっと奥には山のいただきが連なり、山の頂上からは、目にしみるくらいの青空が見えるんだ。夏の景色を想像することすら拒むほどの絶景だ。
『柊哉、見て。そこの真ん中より少し右側に、2本だけ大きなモミの木があるだろう?』
ぽっかりと空いた空間のほとんど真ん中に、それはあった。
『はい。』
『明日、運が良ければ、その2本の隙間から朝日が差し込んで、光の線を何本も作るのが見れるよ。』
2本のモミの木だけが、なにもない銀世界の真ん中に、ぴったりと寄り添い支え合うように立っている。
『あの2本さ、きっと他の木達において行かれちゃって2人だけでさみしくて、寄り添いあってるんじゃないかなぁ』
そう言った俺を君は『ロマンチストなんですね。』なんて、クスクス笑った。
「俺、前からそう思ってたんだけど、言葉にしたのは初めてだったんだ。この時君にそんな事を話をしたのは、どうしてなんだろうな?」
最初のコメントを投稿しよう!