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君は、明日の朝俺のオススメの光景を見たいって、その前に構図を決めたいから、軽くデッサンしてもいいですか?って俺に聞いた。
それから、俺は何枚か写真を撮って。君もスケッチに夢中なって、気づいたらもう、13:00近くになっていたんだ。
俺は折りたたみの小さなアウトドア用のテーブルを広げてから、サンドイッチとコンロをとり出して、小さなポットにスープとコーヒーを飲むためのお湯を沸かす。
『柊哉。お昼だよ。おーい、柊?』
夢中でデッサンをする君は何も聴こえないようだった。君の瞳の中に映った君を夢中にさせている景色に、俺が嫉妬したくらいだ。
『コーヒーちょっと濃いな。』
『いえ、美味しいです。遼介さん。』
『そう?なら、よかった。』
『こんな絶景の中で、こんなに美味しいランチを食べれるなんて、思ってもみなかったので。感動しちゃいます。』
『感動してくれるの?うれしいんだけどさ、実はそのサンドイッチ、家の近くのパン屋さんで買ったやつ。』
『ふふ。そうなんですね。でも、やっぱり感動しちゃいます。』
遅いランチをとっていると、急に空が暗くなってきたから、『山の天気は崩れ始めると早いから、もうそろそろ戻ろうか。』って俺が言うと君は残念そうに少しだけ唇を尖らせた。
ログハウスに戻って玄関の扉を開けると、中は点けておいたストーブのおかげで、柔らかく暖かかった。薪ストーブ特有の家全体を優しく包むように暖めてくれる感じが、俺は好きなんだ。
俺がもう一度ストーブの中に薪を足しながら『柊哉、外寒かっただろ?朝はもっと寒いからな。』と言うと君は、『すごい景色が見れるなら、大丈夫です。』って言って微笑んだ。
ふと窓の外に目をやると、案の定空が暗くなって、ふわふわとした大粒の雪が舞いはじめた。風のせいなのか、雪の結晶が窓の下から上に上がって行くように見える。
『遼介さん....雪....』
そう言ながら、君は窓際に歩いていく。
『綺麗ですね。』
食い入るように見入っている君が可愛くて、俺は、君に近づいて窓を開けた。君は手をのばし、雪を手のひらに乗せてから、『こんなに大きいと、雪の結晶の形がよくわかりますね。』そう言って、宝物を見せる子供のような顔をしながら、俺に見せてくれたんだ。
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