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『遼介さん....ここって......』
『何?変?』
『そうじゃなくって......ここ家..じゃないですよね?スタジオ..ですか?』
『スタジオって言えば、そうかもだけど、ここに住んでるから、家だよ。ほら、そこにベッドあるだろ。キッチンはそこ。』
古いマンションのひと部屋を買って、スタジオ仕様のだだっ広いワンルームにリノベーションした。
『君に言ってなかったっけ?俺、大学在学中から、一応写真で飯食ってるんだよ。
今の仕事もその関係ではあるんだけど、本業でもう少し稼げるようになるまでの副業みたいな感じ。』
『そう言ってましたけど、ここまでだとは.....すみません。』
『はは。いいよ。最近は本業も忙しくなってきたから、そろそろ、一本にしようか迷ってるんだ。』
会社を辞めたら、電車で君に会う口実がなくってしまう。
そう思ってたけど、きっと、もうそんな口実がなくても君に会えそうだ。
『柊哉。これ、この前の。』
『あ...........これ?.......ですか?』
『うん、結構いいだろ?』
『いいっていうか.........どうしたらこんな風に撮れるんですか?
真冬の雪なのに、暖かそうで、暖かく感じるのに光に刺されそうな怖さも感じます。
僕が見ていた景色とは、全然......違います....
遼介さんの目にはこういう風に映ってたんですね.........不思議です。』
『ありがとう。そんなに誉めてもらうと、なんだか恥ずかしいよ。風景を撮るのは趣味だから。』
『遼介さん、これ。どこかに出して下さい。ここだけで埋れちゃだめです。』
珍しく君が強く言うから、俺はそれを次のコンクールに出す約束をした。
「結局、君の言う通りにコンクールに出したこの一枚が、今の俺の代表作の一つになってる。
君がいたから、君とだったから撮れたんだと思う。」
『じゃあ、またな。』
『はい。絵が出来上がったら連絡します。今日は1日ありがとうございました。メールしますね。』
そう言うと君は、俺が渡した携帯をポケットから出して軽く振りながら、微笑んだ。
『絵が.....うん。楽しみにしてるな。』
絵が出来上がらなくても連絡してって、俺は、そう言いそうになってやめた。
『明日、電車で会えますか?』
『そうだね。柊哉が乗るなら会えるよ。』
『あの。遼介さん。もう一つお願いがあるんですけど.......変に思わないで下さいね。
あの.....あっ。やっぱりいいです....』
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