第1章 出会い

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第1章 出会い

「君との出会いは特別なものなんかじゃなかったんだ。」 地下鉄の早朝の車内は、乗っている人が少ないせいか心地のよい静寂に包まれている。 俺は毎朝混み合う時間帯を嫌って、その早朝の電車に乗るのが習慣になっていた。出勤時間の2時間も前に着いてしまうその電車にわざわざ乗っていたのは、それだけでの理由ではなくて....そう、君を見つけたからなんだ。 俺の最寄駅から3つ目の駅の3番線ホーム、改札口から繋がる階段を上がってすぐ、7号車の後ろよりのドアが君の毎朝の定位置だった。 最初は女の子なのかと思った。大きな目をした綺麗な顔立ち、少し癖のある黒髪を無造作に後ろで縛っていたよね。スラリとした細い身体、ひどくなで肩な君の肩に掛けたリュックの紐が、ずり落ちやしないかと俺はいつも心配だった。 君は毎朝、大きなスケッチブックを抱えて、その紐がずり落ちそうなくらいのなで肩に、赤いスポーツブランドのリュックを背負ったまま、決まって俺の向かい側の席に座るんだ。 俺はいつからか、君を眺めるのが朝の日課になっていた。 時々君は、リュックから小さなスケッチブックを取り出して、何かを一生懸命スケッチしていたよね? 少しだけ微笑みながら真剣にスケッチしている君が見れた日は、一日中幸せな気分でいられたような気がするよ。 「ああ、君に恋してるって気づいたのは、もうちょっとあとの話。」 あの日、電車が到着したのに珍しく君はそこにいなくて、俺はなんだか心配になった。もうすぐドアが閉まる、その時に階段を駆け上がってドアに向かって走って来る君を、俺はみつけた。だから、とっさに立ち上がってドアを押さえたんだ。 『ありがとうございました。』そう言って君は俺に頭を下げた。初めて聴いた君の声が耳の奥で何度も繰り返し響いた。その日一日は、仕事中も君の事が頭を離れなくて困った事を覚えている。 翌日から、君と俺は、挨拶を交わすようになって、数日後には、君の指定席が俺の隣りに変わったんだ。
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