第1章 出会い

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そう思ったところで、そんな時間が永遠に続くわけはなく、俺の耳に俺が降りる駅への到着を告げるアナウンスが、容赦なく聞こえてきた。 『じゃあな。柊哉。また。』 『あっ。いつもと逆ですね?行ってらっしゃい、お仕事頑張って下さい。』 『ん。またな。』 “行ってらっしゃい。”なんて...そんな風に誰かに言ってもらったのはいつぶりだっただろうか。その言葉が、俺の心の奥に無理矢理眠らせていた思い出を蘇らせた。 「君に話したかどうかは忘れてしまったんだけど、俺、大学を卒業してすぐ、当時付き合っていた2つ年下の彼女と勢いで籍を入れて一緒に住み始めたんだ。 すごく結婚したかったわけでもないし、彼女を繋ぎ止めておきたかったわけでもない。結婚に憧れていた彼女と、新生活に対する俺の不安がそうさせたのかもしれない。 俺達はお互いに若すぎたんだと思う。まだ学生だった彼女と、社会人の俺。俺にもう少し余裕があれば、上手くいっていたのかもしれない。すれ違いの生活に、徐々に彼女の心が離れてく様が手にとるようにわかった。それでも、俺は彼女に何もしてあげられなかった。何もしてあげられないどころか、俺も家に帰らなくなった。 彼女を愛していたつもりだったんだ。だけど、その短い結婚生活が終わって、俺が感じたのは、少しの寂しさと、少しの後悔と.....それ以上の解放感だったんだ。」 電車の中から、少し恥ずかしそうに手を降る君に軽く手をあげて、俺は改札へ向かう階段を下りた。 駅から会社に向かう歩道の脇にある街路樹は、もうすっかり葉を落として、真冬の準備を始めていた。その街路樹を見上げると、少し前に突然降った雪がまだ少しだけ枝に残っていて、キラキラと光りながら時折雫を落としては俺のコートを濡らした。 『雪か....見に行くか。』 俺はその時ふと、そう思いたった。
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