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その週末、俺が車で迎えにいくって言ったのに、君はわざわざ大きな荷物を抱えて、俺の最寄り駅で待っていた。
パンパンにふくらんだリュックを背負って、大きなスケッチブックを持った君が、左右に首を振りながら俺を探しているのが、少しくすぐったい気がした。
『柊哉!』
俺が車の中から君を呼ぶと、君は俺の声を探して少し背伸びをした。それから俺を見つけると、大輪の花がほころぶような笑顔を俺に向けながら、恥ずかしそうに小さく手を振ってくれだんだ。
ログハウスへ向かう車の中で俺達は、いつもと違う空間に少し緊張しながら話しをした。でも、しばらく走ると俺達の間の空気が徐々に和んでいくのがわかった。
『あくび?なんだか眠そうだね?』
『あ...昨日の夜は、なんだかすぐに寝付けなかったんです。ほら、遠足の前日みたいな感じで。』
『あはは、そうか。寝ていいよ。着いたら起こしてあげるから。』
『いえ、運転していただいてるのに、それはだめです。』
『もし俺が眠くなったら運転変わってもらうかもしれないし。先に少し寝ろよ。な?』
それでも君は『寝ません。』っていいはったけれど、結局途中で会話が途切れて、気がついた時にはもう君は眠っていた。
『柊哉...柊...着いたよ。』
俺のログハウスに着いて、助手席で気持ち良さそうに眠っている君を、起こしてしまうのはかわいそうだなと思ったけれど、俺はそっと君の太ももに手を置いて、軽く2回叩いた。
『ん?....遼介...さん?』
『柊哉、ほら着いたよ。』
君は両腕を上げて軽く伸びをしたあと、俺越しに窓の外を見た。
『うわぁ。雪だ...』
『うん。今年もちゃんと雪があってよかった。』
それから君は、車の中で眠ってしまったことを何度も何度も詫びた。眠っている君の長い睫毛が、呼吸をするたびに揺れるのを綺麗だと思ってしまった俺は、そんなに素直に君が謝るから、少しだけ後ろめたい気がしたんだ。
ログハウスの中に荷物を運んで、自家発電のモーターにオイルを入れる。途中で、ひと冬分の薪を買って来たから、君と力を合わせて横にある小さな物置小屋に運んだ。
『柊哉が一緒に来てくれて助かったよ。いつもなら、1人で運ばなきゃいけないからな。』
そう言うと君は、役にたったならうれしいって、こういうのは初めてだしワクワクしてます。なんて、可愛いことを言った。
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