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◇ 「そういえばこの前ジニから、柊哉にあげてって本もらったんだ。外国の仕掛け絵本みたいなやつでさ。海外で撮影があったから、それのお土産だって。中見たら結構すごいんだ。ドラゴンがうわっとこう.....あっごめん。見る前に俺が言っちゃったら柊哉びっくりしないよな?明日持ってくるよ。」 俺はそう言いながら、隣に座っている柊哉の右手をそっと握って軽くキスをしてから、俺の太ももに乗せた。一瞬俺を見た柊哉が、また前を向いたと同時に俺は握った手に力を込めた。 「柊......いいんだよな?あのさ....俺....時々迷うんだ。俺がこんな風に君のそばにいることが、正解なのかって。 俺が近くにいるから、君が戻ってこないんじゃないか...とか。酷いこと言ったし...俺。」 柊哉は前を向いたままぴくりとも動かない。 俺は、桜の花びらを散らしながら吹いている風が少し冷たくなった気がして、柊哉がチェック柄のパジャマの上に羽織っている、ニットカーディガンのボタンを全部閉めた。 「今日お母さん来たのか?新しいパジャマ似合うよ。柊哉。」 昨日はここに来るのが遅くなってしまって、結局、面会終了時刻まで俺がいたから、柊哉のお母さんが来たんだとしたら、今日の午前中なんだろうと思った。 「じゃあ俺達の話、続き話すよ。えっと.......」 ◇ 『柊哉はもうすぐ先生か。おめでとう、小野坂先生。』 『ありがとうございます。先生っていっても、非常勤なので.....先生じゃなくて......』 『そう?普通に先生じゃない?』 『遼介さんも退職おめでとうございます。あっ。おめでとうでいいんですよね?』 『もちろん。ビールきたら乾杯しような。』 『はい。』 春から俺達はそれぞれ目標に向かって新しい道を一歩踏み出した。 柊哉は、市内の高校の美術の非常勤講師として働きながら、個展を開くという夢に向かっていく。 俺は会社を辞めて、大学時代の先輩から勧められたファッション誌のフォトグラファーのアシスタントをしながら、もう一度真剣に写真に向き合う事に決めた。 『遼介さん、ますますお仕事忙しくなって、なかなか会ってもらえなくなっちゃいますね。』 結局、ログハウスに行って俺の手の絵を描くと言う約束はまだ守れていなかった。 image=492193962.jpg
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