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第2章 嵐
「柊哉。調子はどうだ?今日はちゃんと昼飯食べたか?」
柊哉は初めて反応を見せてくれた日からここ数週間の間で、俺に限ってではあるけれど、軽く反応を示せるようになっていた。
今日もこうやって病室に入って声をかけると、俺の方を振り返ってくれる。
「先生がね。今日は特別に君と夕飯を一緒に食べてもいいって言ってくれたから、見て。お弁当。買って来たんだ。
本当なら、柊哉に何か作ってきてあげたかったんだけど時間がなくてさ、ごめんな。早く会いたくてさ。」
ここのところ俺が話している間中、柊哉はじっと目をそらさずに俺を見ている。知らない人を見ている....という感じではなくなったその目線が愛おしく思えた。
この間柊哉のお母さんにも『五十嵐さんに来ていただくと、柊哉の目が笑っているみたいに見える時があるんです。』って言ってもらえたんだ。そう言ってもらえたとしても、やっぱり柊哉のご両親に会うのは後ろめたくて、お母さんとは時間をずらして面会に来ている。
「夕飯までにはまだ時間がたくさんあるから、続き話すよ。今日はさ、君の好きな“外”は雨なんだ、だから、いつもの場所には行けないんだ。そこの窓際でいいか?雨、見たいんだろ?おいで。」
俺は面会者用の椅子を病室の窓際に移動して、柊哉を座らせた。
窓にはめてある鉄格子。それがなければ、もっとちゃんと、君に雨を見せてあげられるのにといつも思う。
「じゃあ、話すよ柊哉。えっと。
俺達がログハウスから帰ったら、東京はすっかり春になっていたんだ...........」
◇
春になってそれぞれの新生活で忙しくなった俺達は、なかなか会えなくなった。
アシスタントの仕事は思っていたよりもかなりきつくて、朝帰宅しても撮影のスケジュールによっては3、4時間後にはまた出かけるという事もざらで、家にはただ寝るためだけに帰っているようなものだったんだ。
時々ぽっかりと時間があくことがあっても、そこが、地方だったり、空いた時間に自分の作品を撮るとなると本当に時間がいくらあっても足りなかった。
だから、時々君がくれるメールだけが俺達をつないでいたんだ。
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