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私の横顔を車掌さんはじっと見つめてくる。
どんなふうに見えているだろう。
けれど私は、自分自身がまっすぐ前を見つめられている気がした。
「春風をはじめてみるのも、いいかもしれないわ」
春風が私をそうさせるかのように。
私の背中を押しているかのように。
閉め忘れたバスの窓から、吹き荒ぶ春風――春一番が舞い込んだ。
私の春風だろう。風に乗って、さっきの自分の声が聞こえたのだ。
きっと春が来るたびに、何度もあそこに届けてくれるのだろう。
それなら、スキップとジャンプをいっぺんにするような考えだと言われても、季節の変わり目のせいにされてもいい。
『ああ、春だからねぇ』の春一番になれるのなら。
今度は春風をはじめてみるのもいいかもしれない。
END
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